石原 聡一郎教授 ご挨拶

社長

 東大病院大腸・肛門外科では、良性疾患から悪性疾患まで大腸・肛門の疾患を幅広く取り扱い、診断から治療、その後のフォローアップまで一貫して行っております。当診療科の母体となる東京大学旧第一外科は明治26年(1893年)に開講され、日本の外科の中で最も長い歴史を持っております。我々はその伝統を踏襲するとともに、最善の医療を目指して常に最新の医療を取り入れ、またより良い診療の開発に取り組み世界に向けて発信してまいりました。

 大腸の悪性疾患の代表は大腸癌です。大腸癌は日本ではまだ増え続けており、がん部位別罹患数のトップとなっています。大腸癌治療の中心的役割を果たすのは外科治療です。当診療科では科学的なエビデンスの基づいた外科治療を安全に提供することを目指して診療を行っております。症例よっては手術の前後に化学療法や放射線治療を併用することで、癌の根治性をより高め、予後を改善する努力をしております。大腸癌の治療においては根治性が重要であることはいうまでもありませんが、治療後の生活の質(QOL)も非常に重要です。大腸癌の手術後には身体の働きに影響が生じて、QOLが低下する場合があります。特に直腸癌の手術後には人工肛門が必要になる場合があります。最近は人工肛門の管理法の進歩により、人工肛門がない人とほとんど同じように日常生活を送ることができるようになりましたが、我々は手術前に化学療法や放射線療法を行って病巣を小さくしてから手術を行ったり、肛門を残すための高度な手術技術を駆使したりすることによって、なるべく人工肛門にならない治療を目指しております。

 最近は大腸癌の外科治療は腹腔鏡を用いた「体に優しい手術(低侵襲手術)」が主流になりつつあります。当診療科には内視鏡外科学会の技術認定医が多数在籍し、癌の根治性と低侵襲性・安全性の両立を目指した腹腔鏡手術を行っております。また新しい手術技術としてロボット手術が注目されており、平成30年4月からは直腸癌に対してロボット手術が保険診療で行えるようになりました。我々は平成24年から直腸癌に対するロボット手術に取り組んでおり、国内で有数の実績を有しております。ロボット手術は直腸癌の治療成績を向上させることが期待されている新しい手術技術です。当診療科ではロボット手術を含む様々な手術法の中から、症例に応じた最適な手術治療法を選択して提供することを目指しております。

 大腸の良性疾患の中では潰瘍性大腸炎やクローン病などの炎症性腸疾患の診療には非常に専門性が求められます。当診療科は炎症腸疾患に対して、診断から内科的治療、さらには外科的治療やその後のフォローアップに至るまで豊富な診療経験を有しております。炎症性腸疾患の治療は内科的な治療が基本となります。最近は生物学的製剤を始めとする数多くの薬物療法が選択できるようになり、治療成績は向上しております。当科は外科の診療科ではありますが、内科的治療にも精通しております。一部の症例に対しては手術が必要になりますが、我々は炎症性腸疾患に対しても傷が小さく目立ちにくい、体に優しい腹腔鏡を積極的に行っております。また炎症性腸疾患から腫瘍が発生することがあり、これを早期に発見して治療することが非常に重要となります。当診療科では炎症性腸疾患の患者さまに対して慎重に腫瘍ができていないかの検査(サーベイランス)を行っており、その有用性を世界に向けて発信してきました。その他、大腸ポリープ、大腸憩室症、痔核や痔瘻を始めとする肛門疾患など、あらゆる大腸・肛門疾患に対して専門性の高い診療を行っております。 当科では患者さま一人一人に対して最善の治療法を提案し、また患者さまご自身のお考えを重視して治療法を決定し、それを安全に提供することを目指しております。